ブライズデイルロマンス  by ナサニエル・ホーソーン

この小説を読み終えて私は首をひねった。はて?

 

ここには同作者の『緋文字』とか「ヤンググッドマンブラウン」のような迫力はかけらもない。知識人たちが自給自足を目指して作ったブライズデイルという共同体で、ゼノビアプリシラという姉妹(途中までは隠されている)がホリングズワースという自己中心的な博愛主義者に惚れて、振られたゼノビアに悲劇が訪れるというだけの話だ。

 

実際に何本か論文を読んでみたところ、小説の魅力についてのものというより、ホーソーンの女性観などについて論じる手がかりにしているものばかりだった。実際にこの小説においてはゼノビアプリシラ姉妹そして語り手であるカヴァーデイルが最も魅力的なキャラクターである。ホリングズワースは中心人物のくせにどうしようもないくらい深みのないキャラクターだ。

 

ゼノビアは女性性があふれ出ているようなキャラクターである。対してプリシラはおとなしくて従順、なんだけどつぶさに読むと何か後ろ暗いところがあって、それなのに最後はホリングズワースの良妻として収まっている。なぜ姉のゼノビアを死に追いやったようなホリングズワースとくっつくのかというところも何やら不気味である。

 

たぶんこの小説のミソは語り手カヴァーデイルにあるのだ。信用できない語り手とまでは言わないが、この語り手は『華麗なるギャツビー』のニック程度には語ることを選んでいる。だから読者はこの語り手のせいで、常に暗い場所を手探りで進んでいるような気分になり、プリシラについても語られないところがむしろ重みを持って読者の心に残る、そういう仕掛けになっているのだろう。実際に、カヴァーデイルが最後に自ら隠していたことを告白し始めるところはミステリー仕立てでドキドキさせられた。これがゼノビアを殺したのは自分だったみたいな告白だったら実に面白かったのになあ。