Missionaries Phil Klay

処女短編集Redploymentが素晴らしかったフィル・クレイの第二作。たいへんに期待して読んだのだが、かなり失望を覚える出来だった。 今作ではアフガニスタンの最前線で取材をしている女記者とか、傭兵として働いているその記者の元恋人とか、コロンビアの政…

七破風の屋敷  ナサニエル・ホーソーン

アメリカ・ルネサンスの大家、ナサニエル・ホーソーンの長編小説だが、『ブライズデール・ロマンス』よりはるかに面白かった。 野心に燃えるピンチョン大佐は魔女狩りにかこつけて前々から狙っていた七破風の屋敷の住人を処刑し、それを手に入れる。それから…

The Adventures of Tom Sawyer    Mark Twain

アメリカ文学史上数少ない陽キャ主人公のベストセラー児童文学である。文学には陽キャの主人公は非常に少ない。考えてみるまでもなく、陽キャに文学は必要ないからである。だからこの小説も、昔は自分もこんな感じだったなあ、と多くの読者のノスタルジーを…

時間の歴史  ジャック・アタリ

主に時計の歴史をたどりながら、時間というものがいかに権力と結びつき、社会を支配してきたかを解き明かしたジャック・アタリの優れた論考。 アタリは時間の歴史を「神の時間→身体の時間→機械の時間」とあらわす。 神の時間とは時間がまだ神に属すると考え…

Ballen Ground by Ellen Grasgow

Barren Groundは1925年というハイモダニズム全盛期にそんなこと知ったことかとばかりに書かれたちっとも実験的ではない名作である。 出だしは限りなくセンチメンタルノベルに近い。田舎の純真な少女であるドリンダは、都会からやってきたジェイソンと恋に落…

サバービアの憂鬱  大場正明

50年代アメリカでやにわに発達してきた「郊外」についてさまざまな映画や小説を通して論じた一冊。 結論から言うと全体として学部生の卒論レベルの議論だった。いろいろな映画や小説を紹介しているのはいいのだが、それだけで、そこから一向に話が深まらない…

ヒルビリー・エレジー  J.D.ヴァンス

アメリカ版しろばんば アメリカの田舎は魔境である。かつてアメリカ南部の陰鬱な狂気を描いた「トゥルー・ディテクティブ」というすぐれたドラマがあったが、アリゾナ出身のアメリカ人の知人が「あれこそまさにアメリカ南部」と言っていた。 ヒルビリーとは…

Essays and Lectures by Ralph Waldo Emerson

読んだのは"Nature""The American Scholar""The Transcendentalist""The Young American""History""Self-reliance"。 エマソンはスピリチュアリストの元祖みたいな人である。基本的にはプラトン的で、あらゆる時代を通じて存在するイデアのような存在があり…

ブライズデイルロマンス  by ナサニエル・ホーソーン

この小説を読み終えて私は首をひねった。はて? ここには同作者の『緋文字』とか「ヤンググッドマンブラウン」のような迫力はかけらもない。知識人たちが自給自足を目指して作ったブライズデイルという共同体で、ゼノビアとプリシラという姉妹(途中までは隠…

Tropic of Capricorn by Henry Miller

このヘンリー・ミラーには我慢できないことが一つある。それは流されるままに生活することだ!! 1920年代はまさにハイモダニズムの時代だった。フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、フォークナー。綺羅星のごとく現れた才能たちは、人一倍小説の構成という…

Mao II (マオ II)  by Don Dellilo

タイトルの「マオII」は、いろんな色合いの複製の毛沢東の肖像画を並べたアンディ・ウォーホルの作品のことを指している。アンディ・ウォーホルと言えば、同じようにして制作したマリリン・モンローについての作品も有名だが、そうやってチープな複製を並べ…

Invisible Man (透明人間) by Ralph Ellison

アメリカ黒人文学の古典である本作だが、まず何よりストーリーが面白い。現代黒人文学に付き物の観念的な思索などはなく、ド直球の波乱万丈ストーリーが繰り広げられる。深刻に、そしてとんでもない迫力で黒人たちの窮状を訴えるリチャード・ライト小説とは…

アナザーラウンド (2020)

中年の危機を描いた映画や小説はたくさんあって、2021年度アカデミー国際長編映画賞を受賞した「アナザーラウンド」はそんな映画のひとつである。 主演はデンマークの至宝ことマッツ・ミケルセン。マッツが演じるのは学校でも家庭でもうまくいかない冴えない…

The Ballad of the Sad Cafe (悲しき酒場のバラード)  by Carson McCullers

カーソン・マッカラーズという女流作家についてはいくつか知られていることがある。南部作家であること。アル中であったこと。レズビアンであったこと。そして小説のタイトルが過剰にセンチメンタルであることだ。 代表作の『心は寂しき狩人』からしてすごい…

Life on the Mississippi (ミシシッピ河での生活) Mark Twain

マーク・トウェインは『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』で有名な19世紀後半に活躍した作家だが、決して子供向け作家ではない。そもそも『ハックルベリー・フィンの冒険』は児童文学のように見えるけれど、その実、非常に文学的に…